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菊地成孔と大谷能生が東京大学で行った講座「十二音平均律→バークリー・メソッド→MIDIを経由する近・現代商業史」の前期分をまとめた本、『東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・歴史編』を読んだ。

もっすごい、おもしろかったよ、今年のベスト3になりそうな予感。おもしろさのベクトルは、どことなく中沢新一に似てて、知的で妖艶なエンターテイメントの方角。

内容は、ジャズの歴史の講座って体なんだけど、年表を使って事柄を時系列に並べるんじゃなくて、むしろ雰囲気としては、アメリカ現代史のジャズを用いた脱構築って感じ。音の記号化とそこからの脱出っていう、あらゆる記号に普遍的に起こりそうな対立を大きな軸にして、白人vs黒人とか、スイングvsビバップとか、モードvsフリーとかって様々な二項対立をテコにして、音源を聞きながら、話をすすめていく。

こういった二項対立とか、音の記号化と記号化からの脱出みたいな単純でわかりやすい図式は、平易で直感的な分、欺瞞をはらみやすくなるんだけど、著者はその事に自覚的で、前がきの菊地成孔の言葉を引用してみると、

ジャズ史に限らず、およそ人間が編纂する歴史は総て偽史である。

引用元: 菊地成孔,大谷能生 『東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・歴史編』 P6

とかって書いてて、なんてゆうか、ポストモダンな、シミュラークルな、脱構築な、大文字のジャズ史を標榜としてる。さらにこの本の副題『Jazz Logic Pataphysique』の「Pataphysique」を調べてみると、アルフレッド・ジャリの造語で「科学のパロディを目指すナンセンスな学問」ぐらいの意味だそう。こうゆうメタさ、自虐さ、のおもしろさ、がある。

僕自身が今、「・・・な、脱構築な、大文字のジャズ史・・」とか書きながら、書いてる事の意味がいまいちわかっていません、ってゆうまさにその感じのおもしろさで、「大文字のジャズ史」って単語がこの本の文中に現れたとき1 、僕は一発ギャグかと思って笑ってしまった。

たぶん、「大文字のジャズ史」は、まぁ、「一般的なジャズ史」ぐらいの意味だと思うんだけど、それをわざわざラカンっぽく「大文字のジャズ史」と言う、軽薄なくだならなさもこの本の魅力・面白さでもある。それと同じ構造で、僕のこの記事中の「脱構築」は、「あるキーワードを使って見方を変えた批評」ぐらいの意味なんだけど、この本は僕の記事とは違って高質多量の音楽情報が満載で楽しいよ。早く続編が読みたくてしかたない。

他にもこの本は、偉大なジャズメンの遍歴をいろんな切り口で教えてくれて、実に興味深い。このあたりは実際に読んで体験して欲しいんですが、ジャズの極北を指向したジョン・コルトレーンと、表題にもなっているアルバート・アイラーの「鈴」のくだりはおもしろかったよ。2
60歳近くのマイルス・デイビスが、プリンスやマイケル・ジャクソンと同じ服装にしたい3 っとかって話もおもしろくて、マイルスの自分が中心・自分が王道、自分が一番って主義が、手塚治虫のそれに似てるなって思った。

戦後に爆発的に流行ったって事で、ジャズと漫画はちょっと似てるかも。求心的人物の主義はまるっきり一緒に思えるな。自分が王様じゃなきゃ、納得いかない、みたいな。戦後って事で、表面的な歴史が浅い分、まるで、その歴史の総てを知った気になってしまうって面でも似てるかも。

あと、読みながらでは幾多の名音源をすぐに聞けないのが一番残念。後述参考リンク先に音源集があるので、これを元にどんどん聞いてみます。同じく参考リンク先のyoutube動画集も、おすすめ。

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Author菊地 成孔
大谷 能生
Manufacturerメディア総合研究所
Release Date2005年05月
Price1,680yen


参考・参照

公式サイト
東京大学のアルバート・アイラー/菊地成孔・大谷能生/JAZZ書籍

『東京大学のアルバート・アイラー 歴史編』と、続編の『東京大学のアルバート・アイラー キーワード編』で扱った音源の紹介
東京大学のアルバート・アイラー/菊地成孔・大谷能生/JAZZ書籍: 音源紹介 アーカイブ

「東京大学のアルバート・アイラー」に沿って、ジャズのYoutube動画がみれる。この本では扱われてないピアノも。
Youtubeで読むジャズ史「東京大学のアルバート・アイラー」(その1)
Youtubeで読むジャズ史「東京大学のアルバートアイラー」(その2)
Youtubeで観るジャズ・ピアノの系譜

続編の音源紹介
chemical junkie: 東京大学のアルバート・アイラー キーワード編

photo by StuSeeger

  1. 菊地成孔,大谷能生 『東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・歴史編』 P136 [back]
  2. 菊地成孔,大谷能生 『東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・歴史編』 P167 [back]
  3. 菊地成孔,大谷能生 『東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・歴史編』 P189 [back]

Comments

日本のjazzは奥が深くて僕も今調べてるところ。
60~70年代のジャズ喫茶と何らかな形で関わっていた人物に有名人が多いって、やっぱり音楽だけじゃなくて文学、コメディ、演劇などに通じるポストモダニズム的な、脱構築的なものがあったんだろうと思う。
今月号のquick japanに筒井康隆と菊地成孔の対談でも、同じようなこと言ってたわ。
んで、今さらだけどチベットのモーツァルト読みたいです。オウムの人たちが愛読していたってのに惹かれた。

1
2007/05/11 11:30 by mn

日本のは、山下洋輔ぐらいしかわかんないなぁー。確かに、団塊の世代前後の人は、ジャズ喫茶によく行ったって言ってるねぇ。

チベットのモーツァルトはほんとおもしろいよ。是非。

2
2007/05/11 20:02 by rui_mashita